若者の海外志向の温度差 アジア諸国vs日本
下記は「月刊グローバル経営 2024年1/2月合併号 No.475」(一般社団法人 日本在外企業協会刊行)の「Plaza 経営」(24-25頁)に所収されています。
【プロフィール】
横山和子(よこやまかずこ)北海道小樽市生まれ。北海道大学卒業後、米国インディアナ州立大学にてMBA取得。京都大学博士(経済学)。ILO、UNHCR、FAOなどの国連機関に勤務後、帰国。現在、International Career Development株式会社CEO、大学非常勤講師。
大浦智子(おおうらともこ)1979年兵庫県生まれ、高校卒業まで神戸市で育つ。信州大学教育学部卒業後、2001年からブラジル・サンパウロ在住。フリーランスで現地の日本人向けマスコミで取材・執筆活動ほか、編集業務に携わっている。
日本の若者の内向き志向のリアル
近年、日本の若者の内向き志向が指摘されている。日本の大学生は日本経済が弱体化しているという危機感を持っていない。例えば、これから経済成長するのは東南アジアだという話をしても、関心を示されることは少ない。
一方、海外に出ると、アジア各国出身の優秀でアグレッシブな20代や30代に出会うことは珍しくない。彼らは母国語に加え、流ちょうな英語で仕事もできる。母国を中心に据えながらも、自分が活躍する場所として、世界全体を見渡し、自分に有利な国へ積極的に移動することを考え、実際に行動に移している。
アジア諸国の若者のアグレッシブさは、日本人と外国人が在籍する教育現場でも顕著に見られる。日中韓3ヵ国の若者の連携を強化する目的で、日本・中国・韓国の国連協会が主催するJCKユース・フォーラム(Japan, China, Korea Youth Forum)の企画に応募した学生が好例である。応募資格は26歳以下の日本国籍者の大学生か大学院生だが、日本の大学に在学中の留学生も応募できる。このフォーラムは、2023年度は中国で開催され、開催地までの渡航費や宿泊費は全額、主催者持ちという好条件であった。横山が教える大学の授業時間に学生全員に応募するよう勧めたところ、学生83名の内、応募したのは在日韓国人学生とベトナム人留学生の二名だけだった。「日本人の学生はどこに?」と、予想を上回る日本の若者の内向き志向の現実を目の当たりにした思いだった。
さらに驚いたのは、以前知り合ったベトナム人が応募の締め切り後、自分が応募資格に該当しないにも関わらず連絡してきた事である。彼は日本の大学院に留学後、2023年4月から日本企業に就職しており年齢は応募上限を超える29歳だった。しかし、この企画に参加するために会社と交渉し、有給休暇を使い参加する許可を上司から得たので応募したいと連絡してきた。応募期限が過ぎて応募条件も合わなければ、日本人ならさっと諦めてしまうが、上司にまで直談判してチャンスをものにしようとした若者の積極性に驚くばかりであった。
アジア諸国は経済的には日本ほど豊かではなく、これらの国の若者は海外へ渡航することはもちろん、好条件のチャンスは決して多くないことを知っている。現在、日本の学生は、海外で英語の語学研修を受ける機会も豊富で、海外は身近な存在である。海外での苦労を避けようとしている若者が多いことは本当に残念である。
世界で生きることを視野に入れた日本以外のアジアの若者
日本の若者に自国経済の危機感が薄いのは、今この瞬間に食べられていることが大きいかもしれない。しかし、日本の国民一人当たりのGDPを見ると、2000年には世界第二位だったが、2021年には27位に下がった。今後、他のアジアの国々の若者のように他国で外貨を稼ぎに行かなければいけない日が来ないとはいえない。
アジアの若者が海外で就労する例として高度技能人材ではないかもしれないが、近年、日本にも技能実習生や留学生などで急増したネパール人挙げたい。2022年の法務省の統計では139,393人(前年+42,284人)が記録されている。アジアで経済最貧国といわれるネパールからの就労者を最も多く受け入れているのはマレーシアで、2020年には約38万人、2016年には約70万人を受け入れている。二番目に受け入れが多い国はカタールで現在約35万人、他の湾岸諸国でも多く就労している。
英語ができるネパール人が現在、最も魅力的だと感じている国はオーストラリア、ニュージーランド、カナダであり、残念ながら日本ではない。オーストラリアでは、同じ仕事をすれば日本の時給より約二倍稼ぐことができる。アジア最貧国の出身だからネパールの若者が世界を知らないと思ったら全くその反対で、自国経済が低調だからこそ、世界各国の経済状況や入国ビザの条件などを自分たちの目で見て情報交換し、現状を分析してたくましく生きている。知り合いの日本企業で働くカンボジア人はアジア各地で働くカンビジア人の友人たちと韓国に集合し、観光しながら情報交換をするという。
インターネットで海外とは簡単に情報交換できる時代、ごく普通の人々までが食べるため国境を越えて国内外で経済を回す生き方は、既にアジア諸国の若者の方が日本の先を行っているように感じられる。今後、日本の若者はそのようなアジア諸国の人々と協調するだけでなく、競合していかなければならないのである。
グローバル化は今後さらに加速する。企業環境も大きく変化し、同じ会社に定年まで働き続けるという日本型雇用制度は欧米型の成果型雇用制度に移行している。日本の若者がグローバル化という大きな流れに気づき、個人が主体的に自分の人生をデザインして切り拓いていく必要のある成果主義を肌感覚で知るためにも、海外を経験することに目を向け、一度しかない人生でのチャンスを増やすことに繋げてほしい。
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横山和子(よこやまかずこ)北海道小樽市生まれ。北海道大学卒業後、米国インディアナ州立大学にてMBA取得。京都大学博士(経済学)。ILO、UNHCR、FAO等の国連機関に勤務後、帰国。現在、International Career Development株式会社CEO、大学非常勤講師。
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