複数の国籍で活躍
―グローバル人材が育つための環境整備とは

下記は「月刊グローバル経営 2024年6月号 No.479」(一般社団法人 日本在外企業協会刊行)の「Plaza 経営」(40-41頁)に所収されています。

【プロフィール】
International Career Development ㈱ CEO 和子横山
ブラジル在住ジャーナリスト 大浦智子

横山和子(よこやまかずこ)北海道小樽市生まれ。北海道大学卒業後、米国インディアナ州立大学にてMBA取得。京都大学博士(経済学)。ILO、UNHCR、FAO等の国連機関に勤務後、帰国。現在、International Career Development株式会社CEO、大学非常勤講師。

大浦智子(おおうらともこ)1979年兵庫県生まれ、高校卒業まで神戸市で育つ。信州大学教育学部卒業後、2001年からブラジル・サンパウロ在住。フリーランスで現地の日本人向けマスコミで取材・執筆活動ほか、編集業務に携わっている。

国籍を付与する国

現在、何らかの形で複数国籍を認めている国は世界で8割に達している。

少子化による人口減少の進む日本では、将来的に高度人材だけでなく一般労働者もさらに不足することが予想される。その解決策の一つが外国人労働者の受け入れである。外国人を短期的な労働者として受け入れるだけではなく、外国人を移民として受け入れ、一定の条件を満たせば将来的には国籍を付与する国が増えている。日本政府は日本で長期に働く外国人に日本国籍を付与することを真剣に検討してもよいのではないだろうか?

小国出身の人材を活用する欧州

 2023年9月1日付の日本経済新聞は、移民が人口の1割超を占めるドイツは厳格な国籍管理を敷いていたが、2重国籍の容認に舵を切ったと報じている。2重国籍を容認する最大の目的は競争力の確保である。実際、ヨーロッパでは既に数年の短期労働での受け入れではなく、将来的に国籍を付与することを織り込み定住してもらい、優秀な人材を国の発展に活用している国がある。

 ギリシャの北に位置する小国、アルバニアから日本の国費留学生として来日し、日本の大学から博士号を取得した女性がいる。日本の著名企業に就職したが、いわゆる日本的経営になじめず、オランダのヨーロッパ本社に転勤し数年間勤務した後グローバル企業に転職すると共に、オランダ国籍を取得した。アルバニアは地理的にも歴史的にも複雑な国で、国の経済力は低い。国内で働くだけでは人生の選択肢が狭められる。このような国の若者にとって、海外で働くことは人生に活路を見出す選択肢であり、他国の国籍も取得できればさらに国境超えの自由が得られる。大国のはざまで生き抜いてきた国の国民は、異文化への高い理解力、マルチリンガルの逸材も少なくない。その様な小国出身の逸材を活用しているのがヨーロッパであるように思われる。

1つだけでないパスポート

 国際公務員は自国のパスポートに加え、国連から外交特権のある青い外交官用パスポートを付与される。

日本人国際公務員は日本のパスポートと外交官パスポートの両方を身に着け海外出張するのであるが、私の友人の元国際公務員は4つのパスポートを所持していた。高校はカナダで、大学は米国で過ごしたこの友人はカナダ、米国のパスポートを持っていた。現在はスイスに在住し、スイスのパスポートも持っている。彼女は、訪問国に合わせてパスポートを使い分けていた。

複数国籍が珍しくないブラジル

 ブラジルは生誕地主義の国で、ブラジルで生まれればブラジル国籍を取得できる。移民国家であるブラジルでは、国籍は2つ以上あるという人々が珍しくない。同じ移民でも、例えば、イタリアやドイツはブラジル生まれのそれぞれの移民の子孫への国籍付与の敷居は日本よりもかなり低い。その背景には、例えば、ブラジルでのドイツ移民の貢献は、ブラジル南部でドイツ移民が築いたグラマード市などを見ても明らかだし、ドイツ移民の子孫からは大統領まで輩出している。ドイツ移民の子孫はドイツ本国も決して見逃すことのできない大きな存在なのである。

ドイツ風の町並みで有名なブラジル・グラマード市

「国籍唯一の原則」から転換した韓国

 2022年の出生率が0.78と世界最低水準だった韓国は、2011年に国籍法を改正し、複数国籍を認めない「国籍唯一の原則」から転換した。自国民の出生率向上を半ばあきらめ、外国出身者の帰化によって人数を増やす方向性を明確にした。

 この国籍法改正により、思いがけず恩恵を受けられた韓国人がブラジルにいた。彼は、1970年にブラジルに移民し、5年後には、ブラジルで農場を購入するために帰化する必要があり、その時は韓国籍を放棄せざるを得なかった。第二次世界大戦前に日本で生まれ育ち、敗戦後はプサンに戻ったが、小中学校時代は日本で勉強したため日本に竹馬の友もおり、ブラジルに移民してからも交流があった。ブラジルから韓国へは度々帰国していたが、ブラジル国籍となったことで、日本にはビザを申請しなければ入国できなくなった(2023年9月30日からブラジル国籍者は短期滞在ビザは相互免除措置が適用、現段階では3年間有効)。韓国滞在中にプサンから日本の友人に会うために船で往復しようと思い立っても、諦めたことが幾度かあった。それが国籍法改定により、他国の国籍を維持したまま韓国籍を取得できる対象者に該当し、2013年に晴れて韓国とブラジルの二重国籍が認められ、両国の選挙権が得られた。それに加え、日本へもビザなしで旅行できるようになった。朝鮮戦争、ベトナム戦争にも翻弄されてきた人生が少しは報われた瞬間だった。

人生の選択肢を多く

 グローバル化が進み、将来が見えづらい現在、自分の人生の選択肢をしっかり持っておこうという人達は、人生の選択肢を多く持ちたいと考える。日本も人材不足は深刻な問題である。韓国が舵を切り替えたように、複数の国籍の付与について、日本が真剣に考える時期ではないだろうか。

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横山和子(よこやまかずこ)北海道小樽市生まれ。北海道大学卒業後、米国インディアナ州立大学にてMBA取得。京都大学博士(経済学)。ILO、UNHCR、FAO等の国連機関に勤務後、帰国。現在、International Career Development株式会社CEO、大学非常勤講師。

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